6,088m
MAX
無念の敗退
⚔️はじめに:観光気分はここまで。いざ、6000mの世界へ
ペルーでの遺跡巡りを終え、舞台はボリビアへ。
今回の旅で最もハードルが高く、そして最も楽しみにしていた挑戦の日がやってきました。
目指すは標高6088m、ワイナポトシ(Huayna Potosí)。
「6000m峰」と聞くとプロの世界に聞こえますが、この山は比較的技術的な難易度が低く、「世界で最も登りやすい6000m峰」とも言われています。
とはいえ、そこは酸素濃度が地上の半分しかない死の世界。生半可な気持ちでは跳ね返されます。
🗺️アンデスの白い巨人「ワイナポトシ」
ラパス市内からもその姿を望むことができる、標高6,088mの高峰。
アクセスが良く、初心者が初めて挑戦する6000m峰として世界的に人気ですが、地図で見るとその険しさがよく分かります。
▲ ラパスのすぐ近くですが、環境は完全に「極地」です。
ラパス市内の登山用品店で、プラスチックブーツやピッケル、分厚いダウンジャケットをレンタルした時、ただならぬ緊張感が走りました。

⛏️氷河での特訓と、迫りくる白い巨塔
ベースキャンプ(標高約4,700m)に到着し、まずは氷河でのアイゼントレーニングから始まります。
ガイドの指示に従い、垂直に近い氷の壁にアイゼンの爪を蹴り込み、ピッケルを突き刺す。

翌日、さらに標高を上げ、アタックの拠点となる「ハイキャンプ(ロックキャンプ)」を目指します。
森林限界を超え、草木一本ない荒涼とした岩と雪の世界。


🥶真夜中の誤算。凍りついた鼻
運命の夜間アタック(サミットプッシュ)。
日付が変わる頃、ヘッドライトの灯りを頼りに、頂上を目指して出発しました。
気温は氷点下を大きく下回ります。寒さは想定内でした。
しかし、想定外の敵が私の体を襲いました。
🤧鼻水が、止まらない……
極度の寒暖差か、あるいは乾燥か。突如としてアレルギー症状が発症したのです。
ただの鼻水ではありません。標高5000mを超える極寒の中、流れ出た鼻水は、拭う暇もなくその場で凍りついていきます。
鼻の穴が氷で塞がれ、口で呼吸しようとするも、冷たく乾燥した空気が喉を直撃し、激しく咳き込む。
酸素が薄いこの場所で「呼吸ができない」ことの恐怖。
パニックに近い状態で、酸素を求めて喘ぎました。足が一歩も前に出ません。
👋5000mでの決断。背中に刺さる悔しさ
「……降りよう」
ガイドにそう告げたのは、標高5000mを超えたあたりだったでしょうか。
体力はまだ残っている。足も動く。けれど、息ができない。
山頂はすぐそこに見えているのに、体の中の小さな管(気道)がそれを許してくれない。
高山病でもなく、怪我でもなく、「アレルギーと鼻水の凍結」で撤退するなんて。
悔しさと情けなさで、涙が出そうになりましたが、その涙さえも凍りつきそうでした。

山小屋に戻り、トタン屋根の隙間から差し込む朝日を見た時の感情は、一生忘れられません。
オレンジ色の光はとても暖かく、そして残酷なほど美しかった。
「登りたかった」
その一言が、高地の乾いた空気に溶けていきました。
🌱敗退したからこそ見えたもの
下山中、何度も何度も山を振り返りました。
頂上に立つことはできませんでしたが、あの漆黒の闇の中で、呼吸ができなくなるほどの恐怖と戦い、生きて帰ってきたこと。
それだけでも、自分にとっては大きな経験だったと言い聞かせました。
自然の前では、人間などあまりに無力です。
そして、体調管理も含めてが「登山」の実力なのだと痛感しました。
ワイナポトシ、6088m。
今回は君の勝ちだ。
いつかまた、万全の体調でリベンジする日まで、その白い頂(いただき)を私の記憶に刻みつけておこうと思います。